第2章
小さな基板と、小さな成功体験
机の上に置いたそれは、あまりにも小さかった。
名刺より少し大きい、緑色の基板。
ESP32という名前のマイコンボードだ。
初めて手にしたとき、私は正直に思った。
「こんな小さなものが、何になるのだろう」
だが今では、この小さな基板が
私の人生を再び動かしたと言ってもいい。
なぜESP32だったのか
理由は単純だった。
高価ではない。
特別な設備もいらない。
そして、世界中で使われている。
つまり、
“ひとりでも始められる技術”だった。
高度なロボット工学でもなければ、
研究室の専門装置でもない。
机の上で、
小さく始められる。
それが重要だった。
74歳の私に必要だったのは、
完璧な技術ではない。
「動いた」という事実だった。
できない、という壁
最初は戸惑いの連続だった。
パソコンにつないでも反応しない。
エラーが出る。
設定が分からない。
若いころなら、
一晩で覚えられたかもしれない。
だが今は違う。
目は疲れやすく、
理解にも時間がかかる。
何度も思った。
「やはり若い人の世界か」
だが、ここでやめたら
自分で自分を“終わり”にすることになる。
それだけは嫌だった。
小さな光
最初に成功したのは、
LEDが点灯した瞬間だった。
たった一つの光。
だがその光は、
部屋の中を照らしたのではない。
私の心を照らした。
「まだできる」
その感覚は、若いころと変わらなかった。
大きな成功はいらない。
小さな成功体験。
それが人を前に進ませる。
シニアに必要なのは“成功の設計”
若い人は失敗を恐れにくい。
だが年齢を重ねると、
失敗が怖くなる。
時間が限られていると感じるからだ。
だからこそ重要なのは、
失敗しないことではなく、
成功を小さく設計すること。
ESP32は、その設計にちょうどよかった。
・LEDが点く
・音が鳴る
・腕が少し動く
一つ一つは小さい。
だが積み重なると、
確信に変わる。
技術は、目的ではない
私は技術者になりたかったわけではない。
目指したのは、
地域を守ること。
子どもたちの安全を守ること。
高齢者を詐欺から守ること。
ESP32は、手段にすぎない。
だがその手段を学ぶことで、
私は再び社会とつながることができた。
小さな基板が教えてくれたこと
あの基板は、私にこう教えた。
「年齢は、回路ではない」
配線さえつなげば、電気は流れる。
挑戦さえ続ければ、可能性は流れる。
問題は、年齢ではない。
問題は、挑戦をやめることだ。
